転校生の災難

転校を経験した事がない人がうらやましい。

幼稚園も、小学校も、中学校も、高校も、大学も、みんな転校した。

転校生は何かと目をつけられて、厄介ごとが舞い込んで来るものだ。

たぶん私が頻繁に厄介ごとに巻き込まれるのは、転校生だからだと思うんだけど、もしかしたら、私だからかもしれない。

小4の2学期、転校したクラスには3人組と呼ばれる、クラスを牛耳っている勢力があった。

ワタさんというわがままな子が何もかも仕切り、のんちゃんという可愛い子がナンバー2だった。

3人目はムラさんといって、目立たない子で、無理矢理仲間に入れられ、本心は嫌がっていたが、逆らうとイジメにあうので、仕方なくワタさんの言いなりになっていた。

何故そうまでして3人必要かと言うと、休み時間、教卓にのぼって「キャンディーズ」をやるためだった。

ムラさんは超イヤそうにやっていて、いつもワタさんに罵倒されていた。 ムラさんが上手く出来ないので、ワタさんは途中で怒りだし、ムラさんを突き飛ばしてステージから落とし、その後のんちゃんと2人でピンクレディをやった。

転校生の私は、まずはそのキャンディーズ&ピンクレディステージの観客として招待され、ここではワタさんに従わなければ、やって行けない事を暗に教え込まれた。

転校数日目に、ワタさんはいきなりムラさんをメンバーからはずして、私に「蘭」をやれと言い出した。

私はテレビを見ない子だったので、キャンディーズがどんなものだか知らなかった。

ワタさんは一週間以内に歌を覚えるように命令して、次の日私にテープを渡した。

なんかへんなドタバタ番組も、見てセリフを覚えるように命令されたが、うちはテレビ禁止。どうしようかなと思ったけど、学校で劇をする事になって、覚えなくちゃいけないからと、親にテレビを見させてもらった。

まあ、嘘ではない。

そんなこんなで、なんとか振りも覚えて、私が「蘭」、ワタさんが「すー」、のんちゃんが「みき」の新キャンディーズが誕生した。掃除の時のモップをマイクにして、机をくっつけてステージにして歌う。

ワタさんはかぎっ子で、放課後は最終下校まで家に帰らない。クラス中の女子みんな、それに無理矢理つきあわされている、という感じだった。

先生は見て見ぬフリをしていた。学級新聞には、「3人組が4人組に!どうなることやら……」と記事を書いていたが、別に誰の事も批難はしなかった。

私はハッキリ言って迷惑だった。でも、転校生だし、郷に入れば郷に従えと言うじゃない?喧嘩になってもめんどくさいし、クラス替えまでは仕方ないなと合わせていた。

ムラさんは私のお陰で解放されて、本当にホッとしていた。私は人前で歌うのは全然苦にならないけど、ムラさんは人前に出るのが大嫌いな子だったので、辛かったんだと思う。

そんなある日、テレビでやっているドタバタコントみたいなものをやるから、練習するとか言って、みんなでワタさんの家に遊びに行った。

ムラさんはお父さん役をやらされる事になった。

その時、たぶん秋でもう涼しくなっていたような気がするが、私は水着で、胸とお尻にボールを入れて、「胸ウキウキ、お尻ウキウキ、これなら絶対沈まないでしょ」とかなんとかいうセリフを言う役になっていた。

さすがの私も、「ちょっと待って、それは出来ない」と抗議したが、ワタさんは、先生の許可も取ってあるのに今さら「蘭」が降りたら台なしだと言って怒った。それでもクラス全員の前で一人だけ水着で、しかも胸とお尻にボールを入れるなんて、絶対にイヤだとがんばった。するとワタさんは、「わかった、じゃ、ムラさんやってね」とムラさんに役を振った。ムラさんは泣いてイヤだと懇願したが、ワタさんは許さない。恨むならスンチャン(当時の私の呼び名)を恨みなよと、私を横目でちらりと見る。

汚いやり方だった。当時の私は正義感の固まりの偽善者だったんだよ。ムラさんを犠牲にできる訳がなかった。ワタさんにはそれがわかっていた。ムラさんにそんな役をやらせても、泣き出してしらけるだけだ。最初から絶対に私にやらせる気だったに違いない。

なんて汚いやり口なんだと、私は悔し涙が出そうになったが、泣かなかった。ムラさんが私の足元に泣きながらすがりついて、お願いだからスンチャンやってと繰り返していた。もう私がやるしかなかった。

たぶん9月も終わりの頃だったと思う。ホームルームの時間をつぶしての余興だった。結構涼しかったけど、ムカついていたので「やってやろうじゃないの」と強気になっていたし、寒さは感じなかったと思う。内容はあまりよく覚えていない。「胸ウキウキ〜」をやらされた事が屈辱で、そこのくだりしか覚えていないのだった。

私は内心はらわた煮えくり返っていたが、根っから芸人なのでちゃんと演技した。ウキウキの手ぶりもちゃんと入れて、ウィンクまでしてやったよ。「どうだ参ったか。こんなことぐらい何でもないんだから」と自分に言い聞かせたが、本当はどうしようもなく恥ずかしかった。でも喜んでやっていると思われていたに違いない。強制に屈したと思われるよりはその方がマシなので、勝手にどうとでも思えよと心の中で悪態をついた。

コントは大ウケだったので、ワタさんは大満足。先生(20代男)まで大笑いして見ていた。止めろよな。(怒)

思えばこれが、生まれて初めての汚れ役だったかもしれない。

この屈辱から生まれたのが、私の初めての小説「花の中の天使」だった。私の書くエネルギーはいつも怒り。昔から怒りがないと文章が書けないのだった。

それなのに、大笑い出来る話になってしまったのは、何故なんでしょう……。

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