史上最悪のナンパ師
いまだかつて、ここまでしつこいナンパに遭遇した事はない。
私は昔家庭教師をしていた家に招かれた帰りで、いつもだったらお父さんが車で駅まで送ってくれるのだけど、今日は酔っぱらっちゃって、バスで帰る事になったのだった。
ちなみに何で招かれたかと言うと、そのお家はお相撲さんの後援のような事をしていて、今日はお相撲さんを呼んで奨励会をするという事で、何故か招かれたのだ。
しかし、行ってみると招かれた理由がわかった。彼等は私を出張ホステスと間違えていた。私はひたすらお相撲さんにお酌する為に呼ばれたのだった。んなもん、自分の娘にやらせろよな。(怒)
だが内心で文句を言いながらも、ちゃっかりとお手当2万円貰い、トロ寿司だけ選んで食って来た。転んでもただでは起きないわたくし。そして宴会もたけなわの午後9時、先にお暇しますと抜けて来たのだった。
雨の中、バス停で1人佇んでいると、白い車に乗った男がクラクションを鳴らした。大きな通りの割に車は多くなくて、男はバス停前に堂々と車を停車して私を口説き始めた。
雨が降っていてバスも遅れがちだから、家まで送ってあげたいだけで、本当に何もやましい事は考えていないと強調するのが、かえって怪しい。
普通は2〜3度断ると諦めるものだけど、その男は本当にしつこい。しかも口が達者で、ペラペラペラペラ、も〜うるさいよってくらい話し続ける。そのうち「ちょっと待っててね」とどこかへ行ってしまったので「待ってる訳ないじゃん」と思いながらも、バスが来ないしタクシーも通らないので、仕方なくそこに立っていた。
すると男は、車をどこかへ置いて来たらしく、歩いてこちらに向かってくるではないか。
「お待たせ」と爽やかに微笑む。待ってねーよ。(怒)
なんて暇な奴なんだ。男は20代後半くらいで、たぶん「俺はいい男でモテモテさ!」と思っているであろう軽い感じの奴だった。つまり、私の大嫌いなタイプ。
だけど他に誰もいないし、あまりつんけんしても大人気ないので、適当に会話しながら新小岩行きのバスを待っていた。
男の顔は見ないようにしていた。顔に自信があるぞって感じだったので、見るとつけあがるだろうから。でも見なくても同じだった。
お前はイタリア人かってほど歯の浮くようなセリフを、まあ次から次へと呆れるほどポンポン飛ばす。私は褒められるのは大好きだけど、歯の浮くようなセリフは大嫌い。いかにも嘘っぽいテレのない言い方で、「げ〜、気持ち悪い〜」とゾーっとしたが、しばらくするとバスが来たので、まあいいや、これもネタだわと思って我慢した。
ところが私がバスに乗ろうとすると、いきなり手を掴んで妨害するではないか。そして運転手さんに乗りませんと勝手な事を言う。私は慌ててふりほどき、乗りますと言ったけど、運転手さんは無情にもドアをバタンと閉めて行ってしまった。
呆然。
痴話げんかと思われたんだろうか。なんて迷惑な。
「さあ邪魔なバスはいなくなった。もう車に乗るしかないね」
男が笑顔でそう言った瞬間、……私はマジキレタ。
男を完全に無視してずんずん歩き出した私に、どこ行くの、車はあっちだよと脳天気男が追って来る。
「乗る訳ないでしょ、怒ってんのよ、ついて来ないで」
と憤慨しながら駅の方向へ歩く。歩いたって40分くらい。待っているよりましだと、水たまりも気にせずとにかく歩いた。
怒った君もチャーミングだね、と鳥肌が立つような事を言いながら男は尚もついて来たが、もう返事なんかしてやるもんかと思って無視して歩いた。うんざりするほど遠く感じたのは、駅までずっと男がついて来て、しようもない事を喋り続けていたから。
駅に着いてからもついて来ようとする男に呆れ果てて、だんだん怒っているのが馬鹿らしくなり怒りも収まって来た。
「もういい加減にしてよ。車置いて来ちゃって駐禁切られるよ」
とうんざり顔で言ったが、男は大丈夫大丈夫、車が嫌なら電車で家まで送るよと、めげない。
何を言ってもああ言えばこう言う、口では決して勝てない奴だった。こんなしつこい奴に家を知られたら大変だと思い、困ったなと考えていると、男が券売機に1000円札を入れて「2」を押し、私にどうぞという仕種で行き先を押すよう促した。躊躇していると、足りない?と言ってまたお金を出そうとしたので、取り消しを押して別の券売機に移った。だが男はしつこく私が切符を買うのを妨害しつづけた。
何なんだよこいつは。迷惑だっつってんだろーが。
「マジで嫌がってんの、わかんないかなあ」
また苛ついて来たので、思いっきり嫌な顔をしてみたが、こたえてない。
「さ、行こう」じゃねえよ。聞いてんのか、こら。(怒)
「お願いだからあっち行ってよ」
と最後は懇願する羽目に。
30分くらい押し問答したあげく、「交番に突き出すよ」と脅してやっと納得してもらったが、まだいるんじゃないかとビクビクしながら改札に入った。 ホント、ムカつく奴だった。
あんなんで本気でナンパ成功すると思ってんのか!?(怒怒怒怒怒)


