小学生時代の男友達

小学校5年6年とクラス替えがなかった。

私はクラスの女子の中で成績1番、Aちゃんが2番(小学校の時順位は男女別にしか発表されなかった)。私達は優等生コンビと言われていたが、Aちゃんはママに言われてイヤイヤガリ勉していただけで、いつも勉強したくないと愚痴っていた。勉強しろと言われるだけマシだよと思ったけど、私は何も言わなかった。私だって自分の安全がかかっていて、Aちゃんに1番を譲ってあげる訳にはいかなかったからだ。

Aちゃんのママは教育ママで、上品そうに見えて実はえげつない人だった。私はAちゃんの家に遊びに行く度、ママが白髪鬼のようなおばあさんに、どんな仕打ちをしているか見て胸が痛んだが、Aちゃんは平気だった。見慣れているのか、おばあさんを嫌いなのか、何の感情も見せない。クリスチャンだったAちゃん一家は、外では善人で通っていたが、怯え切った老婆を知っていた私には、そうは見えなかった。

Aちゃんのパパは建築家で、小5の時自分で設計した家を建てたので、よく遊びに行っていた。中2階があったり、地下があったり、間取りが入り組んでいて、子供心に楽しかったが、おばあさんがぶたれたり、食べ物を与えられなかったり、逆に無理矢理何かを口に入れられたりしているのを見るのは怖かった。

でも一応、すごく好きって訳じゃなかったけど、Aちゃんが1番仲のよい友達だった。

小学生の時は何故か優等生の方がモテるという法則の例にもれず、私はめちゃくちゃ人気者だった(てゆーか、おもちゃにされてただけって話も……)。男子はいつも私の周りを囲んでは、私をからかったり、放課後の体育館裏で告白したり、ラブレターを机にまぎれさせたりした。

その中の、クラスでも中心的グループの男子5人は、毎日帰りにうちまで付いて来た。

小6の時、それまでガリガリだったのが、だんだん女らしい体型になってきて、少し体重が増えた。男子は太った太ったと喜んで、私が歩くと地響きがすると言って、私の周りを飛び跳ねた(←それをイジメと思わず人気者だと思うあたりが当時から脳天気)。しばらく飛び跳ねながら、うちまで付いて来るのが、流行った。

Aちゃんも優等生なんだからモテてもいいはずだったが、そうでもなかった。その理由はある日わかった。

その日、私と一緒にいるAちゃんに男子が、下ネタっぽい言葉を言わせようとした。私だったら「そんな事言える訳ないでしょ」とムキになる所を、Aちゃんはさらりと言ってのけ、「それがどうしたの? 馬鹿みたい」と冷めきった言葉を吐いた。男子は「面白みのねー女」と言って、それ以上Aちゃんに構わなかった。

私はそれを見てショックを受けた。そうか、私がからかわれるのは、いちいち反応してあげるからなんだ、Aちゃんみたいに毅然としていればうるさくされないんだわ、とはじめて気付いた。

次の日、内容は忘れてしまったが、いつものようにからかいに来た男子に、私は意気揚々と「馬鹿みたい」と言ってみた。

ところが……大爆笑。(- -;)

私の「馬鹿みたい」を聞こうとして、男子がいっぱい集まってきた。何が違ったんだ!?Aちゃんと同じように言ったはずなのに!

しばらくクラスで、「馬鹿みたい」が流行語になった。

そんなある時期、いつもうちに付いて来る男子5人が、日曜日にはうちの前でずっと待機していた。まあ、追っ掛けみたいなものだ。私は気付いていたが出て行かなかった。彼等は私が、窓辺の机に向かって本を読んだり、日記を書いたりしている時間を、毎週毎週飽きもせず、計っているのだった。

その中の1人、トシとは特に仲がよかった……というか喧嘩ばっかりしていた。が、トシとは親同士が役員だった関係もあり、学校以外にも会う機会があった。母は美形のトシを気に入っており、トシの家に行く時は必ず私を連れていった。トシとは学校では毎日喧嘩したが、2人きりの時もやっぱり喧嘩ばっかりしていた。

ある日のトシとの会話。

「お前、俺らが日曜にお前んちの前に来てんの、知ってんだろ? 何で出て来ないんだよ」

「出て来て欲しかったら呼べばいいじゃない」

「別に俺は関係ねえけどよ。AもIもTもNもお前の事好きなんだとよ。ちょっとくらいサービスしてやれよ」

「どんなサービスしろっていうの」

「カーテンあけるとかさ、偶然のふりしてちらっと出てくるとかさ」

「お断り〜」

「あーあ、何でみんなこんな気のつえー女がいいんだか」

「あんただってホントは好きなんじゃないの〜?」

「馬鹿言うんじゃねえよ。俺は奴らにつきあってやってるだけ。だいたい家の前で待ってなくても、俺はいつでも会えるんだぜ」

「何で?」

「俺が呼び出せば出て来るだろ?」

「何言ってんの? バッカじゃない? 何で私があんたの呼び出しに出てかなきゃなんないのよ」

「ホントは俺の事好きなんじゃないの?」

「それはあんたでしょ。いい加減認めなさいよね」

「俺は大人しい女が好きなんだよ。お前と正反対の」

「私だって頭のいい男が好きなのよ。自分より馬鹿なんて絶対イヤ」

「へーそうかよ。じゃTがいいって言うんだな?」

「何で?」

「クラスの男子ではTが1番だぜ」

「そうなんだ」

「Iが2番、俺が5番くらいで、Aが7番くらいで、Nは真ん中」

「ふーん、あんた5番なの? もっと馬鹿かと思ってたよ」

「惚れ直したか?」

「最初から惚れてないわよ」

「正直なとこ、誰が一番脈ありなんだよ、俺は除いてだぜ」

「あんたなんか除くに決まってるでしょ」

「誰が選ばれても納得するって協定組んでんだぜ、あいつら」

「別に誰も好きじゃないけど」

「んと、かわいくねーな」

「あんた以外はみんなかわいいって言うよーだ」

「やつらの気が知れねえ。で、どうなんだよ? 1番好きなの誰だよ?」

「……うーん……Aかな?(彼は、コラム・ラブレターの思い出のA君です)」

「うっそ、Aかよ!? 一番脈なしだと思ったのに。お前、面食いじゃねえな」

「あんた、自分の顔がいいと思って自惚れてんでしょ、私、そういう奴が一番きらい」

「お前だって自分はかわいいとか勘違いしてんじゃねーの? 俺はそういう女が一番きらい」

「私達、気があうね」

「そうだな」

てな具合でいつもいつも言い合いばかりしていた。(ませた小学生だ)

大昔の事で会話の細部は覚えてないんだけど、大体こんな感じの事を毎日毎日飽きもせずやりあっていた。

顔はトシ>T>N>A>Iの順だった。頭はT>I>トシ>A>N。 スポーツは、T>N>A>トシ>Iの順。総合的にはTが一番優れていて、一番人気だったが、どっちにしろ彼等はクラスではモテる集団で、バレンタインのチョコを10個以上貰う男子達だった。

そんな男子が全員揃って私を好きとは、なかなかにいい気分だったが、何故か私がトシを好きだと噂になっていた。トシが自分で言いふらしたんだろうと思って、ムカッとしたが、当時はつきあうという概念はまだなくて、別に好きだからってどうこうという訳ではなかった。せいぜいプレゼントしたり一緒に登下校するくらい。かわいいものだ。

そんな華やかな環境から、中1の3学期に引っ越してしまったのは、実に残念だった。彼等は中学に行っても私を好きで、クラスは全員離れたけど、変わらず私の取り巻きだった。学区が違ってNだけ別の中学に行ったので、1人減ったが、代わりに同じクラスのWとSが加わって取り巻きは6人になった。

彼等は休み時間や放課後や部活の帰り、毎日のようにやってきて、私の好みのタイプを聞く。私はかぐや姫になった気分で、「頭のいい人が好き」と答えた。それを聞いて、彼等はものすごく勉強するようなった。T以外、最初はたいして頭がいい訳じゃなかったのに、TとIはC高(偏差値72)、AはF高(偏差値70)、トシとWは学習院付属に行った。(Sは馬鹿だったので途中で脱落)私のお陰ね。(←違うってば)

何でそれを知ったかと言うと、トシに聞いたから。

トシとは本当に縁がある。引っ越しても住所を教えなかったのに、街で偶然バッタリ会うのである。最低でも3年に1度は必ず偶然出会った。しかも正面から歩いて来るのが小学校の同級生だと、5メートル以上離れた所から、2人同時に気付いてしまうのだ。

「トシ!」

「翡翠!」

「何でこんなとこであんたに会うかな〜」

「お前が会いたいと思ってたからじゃねーの?」

「冗談でしょ、今の今まで名前も忘れてたのに」

「俺だってお前なんか思い出した事1度もねえよ」

と、道路で突然小学生に戻ってしまい、喧嘩しはじめる。30分くらい喧嘩して、もう2度と会いたくないわ、と憎まれ口をきいて、何も聞かずに別れるんだけど、またどっかで会う。多い時は年に3〜4回、偶然会った。

会う度にトシは、「お前の事なんか好きじゃねーよ」と最後に捨てセリフのように言う。わざわざそんな事を言うのが、好きだと言われているように聞こえるのは、私が自惚れ屋だからかな?

そして今日、イクスピアリでまた会った。ちょっと久しぶりだったが、すぐわかった。何でこんなとこに1人でいるんだ? と、聞こうと思ったのに、その前に喧嘩がはじまった。

「もう会わねえだろうと思ってたのに、また会っちまった。いい加減、俺に会いたいと念じるの止めろよな」

「あんたこそ実は私をつけまわしてるんじゃないの? いい加減私を好きだと認めなさいよ。正直に言えば1回くらいデートしてあげるよ」

「馬鹿言うんじゃねえよ、Aじゃあるまいし、いつまでも小学校んときの女を好きな訳ねえだろ」

「小学校んときの女って何よ。あんたの女になった覚えないわよ。あんたが勝手に私を好きだっただけでしょ」

「好きじゃねえっつてんだろ」

「あんたも強情ね」

「お前ほどじゃねえよ。それよかこの前クラス会あったのに来なかったな」

「だってお知らせなかったよ」

「行方不明者リストにのってたぜ」

「何回も引っ越したからね」

「Aがさ、まだお前が好きなんだって独身でいるぜ。会ってやれば?」

「うっそ〜」

「あいつ、中1以来会ってねえんだろ? 30過ぎて中1の面影追ってるなんて、ロリコンだぜ。会ってやれよ、そうすりゃ勘違いだったって気付くから」

「どういう意味よ」

「見違える程デブになってるし、ババアになってるしよ」

「相変わらず失礼ね。すぐに私だとわかったくせに」

「お前が先に俺だと気付いたんだろ」

「今度会ったらきっと気付かないわよ」

「次に会う時はしわくちゃかもな」

「もう会いたくないね」

「俺だってもう会いたかねえよ。何度も言うようだがな、俺はお前の事好きじゃねえぞ」

「私だってあんたなんか大嫌いだよ。それにね、Aには高1の終わりに会ったよ」

「え? 聞いてねーぞ」

「あんたに断る必要ないでしょ」

「何で会ったんだよ」

「別に何だっていいでしょ」

「偶然……のわけねえな。誘われたか?」

「ちょっと用があって私が電話したんだよ」

「マジかよ。何の用で?」

「何気にしてんの〜? 17年前の事なんか覚えてないよ」

「……17年前……そんなに経つのか」

「転校しようと思って試験問題貰っただけだよ」

「そりゃ初耳だ」

「でもね、東京都からの受入はしないんだって断られた」

「ふーん」

「何その気のない返事。あんたが聞きたがるから教えてやったのに」

「別に」

「感じ悪い。私もう行くわ。じゃあね」

「Aになんか伝える事あるか?」

「私の話題出さないで」

「俺から出してんじゃねえよ」

「会ったなんて言ってないでしょうね?」

「言っちゃマズいのか?」

「ちゃんと、偶然って言ってるでしょうね」

「言ってたかな? 忘れた」

「まあいいや、Aには見違えるような百貫デブになってたって言っといて」

「言われなくてもいつもそう言ってるんだけどな、信じねえんだよ。ま、今度会うまでには少し痩せた方がいいぞ」

「余計なお世話」

そのまま、また何も聞かずに別れた。住んでいる場所も、結婚しているかどうかも。でもまたきっとどこかで会うんだろう。

彼は20代までは凄く美形だったが、随分おじさんになっていた。次に会ったら今度こそわからないかも?……なんて事はないか。嫌でもすぐわかっちゃうのかもしれない。

もしかして彼が私の運命の人だったのかしら?

だとしたら、すっげー嫌なんですけど……。(T▽T)

奴にはこれっぽっちも恋愛感情わかない。美形なのに変だね。

会いたい人には絶対会えないのに、どうでもいい奴とはよく会う。現実ってそんなものかな?

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